SMILESは船外プラットフォームの環境を十分に生かし、「きぼう」において初めての地球環境観測に成功しました。従来の小型軽量な衛星では困難だったサブミリ波極低温超伝導受信機を搭載し、そのすばらしい高感度技術を駆使して精緻な地球大気観測を実現しました。
① 地球大気の健康診断
SMILESは地球大気中の物質のこれまでにない高感度な観測を実現しました。SMILESによって取得されたデータは、大気中の複雑な化学反応プロセスを解明し、オゾン層破壊、温暖化、大気汚染などの現状の詳細な把握・診断に用いられます。
② 気候変動への新しい知見
高度10km付近(上部対流圏/下部成層圏)における水蒸気・雲・オゾン・HCl同位体の同時観測により、対流圏物質交換や化学プロセスの理解を深め、気候変動の新しい知見を得ることを目指します。
③ 新しい地球の姿を拓く
SMILESは世界で初めて高度50-90km(中間圏)における微量成分のグローバル分布の連続観測を行いました。例えば、オゾン層破壊物質である一酸化塩素(ClO)は、太陽光の影響でその分布が大きく変わり、高度30-50km(中部/上部成層圏)では昼間に多く、中間圏では逆に夜間の方が多くなることを初めて有意に観測しました。SMILESの持つ可能性はまだ開かれたばかりで、今後もこういった新しい知見を世の中に発信していきます。
SMILESは国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームに取り付けられ、地球大気中の物質が自然に放出するサブミリ波帯の電波を検出します。国際宇宙ステーションは、地上から350-400 km上空にあり、約 90 分で地球を一周します。軌道は傾斜角 51.6°の太陽非同期です。SMILES は進行方向から斜め左約 2,000 km先の大気からのサブミリ波を受信します。大気の縁(英語でリム)をなでるように観測します。SMILES は、大気が自然に放出している(放射している)サブミリ波の電波を検出します。このようにSMILESは、地球大気を、サブミリ波帯のリム方向からの放射を検出して大気物質を探査するので、その観測方法はサブミリ波リム放射サウンディングと呼ばれます。
SMILESに搭載されたアンテナの視野径は、2,000 km先の大気で高度方向に約3 kmです。SMILESではアンテナを、リムの位置で大気の底になる向きから大気のほとんどない上方になる向きまで動かすことで、異なる高度の情報が含まれたサブミリ波放射を検出します。SMILESはこのアンテナ走査を53 秒周期で行うので、1日の観測点数は約1630点になります。国際宇宙ステーションが地球の周りを回り、同時に地球も自転するので、1日で地球上のほとんどの場所の大気を測ることができます。SMILESのアンテナは進行方向よりも左に傾いているので、SMILES が観測できる緯度範囲は北緯65度から南緯38度(国際宇宙ステーション順方向進行時)となります。